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赤ちゃんがわが家にやってきた、あの日。
ふと隣を見ると、いつもと違う空気を敏感に感じ取った愛犬(愛猫)が、じっと赤ちゃんを見つめていました。
言葉はなくても、そのまなざしには“新しい家族”への戸惑いと、どこか誇らしげな優しさがにじんでいて──私は思わず胸がぎゅっとなったのを覚えています。
これは、わが家で始まった、赤ちゃんと動物たちの小さくて大きな絆の物語。
きっと、似たような経験をされたママもいるのではないでしょうか?
幼少期から続く「動物」への思い
私は、生まれたときから実家で犬に囲まれて育ちました。
祖母から引き取った垂れ耳のコッカスパニエル、公園で出会いそのまま家に着いてきた雑種犬、兄が下校中に拾ってきた犬、親戚の家で生まれたミニチュアシュナウザー。
小型犬から大型犬まで、たくさんの犬と暮らしてきました。
そんな私が「大人になったら、絶対にまた犬と暮らしたい」と願うのは自然なことでした。
夫と共に、犬と暮らせる家を見つけ、新しい生活が始まりました。
そして2019年の冬、保護猫のれいちゃんと出会います。
とある都内の保護犬猫の譲渡会で、一匹の子猫に出会った瞬間、私たち夫婦は一目惚れ。
即座に譲渡を申し込み、無事にわが家の家族に。猫との生活が始まりました。
その半年後には、保護犬のはるちゃんを迎え、にぎやかで愛おしい日々が続いていきます。
約3年間、子どもはいないものの、犬猫たちと築いた家族の形。
彼女たちにとって、私たちは「自分を一番に愛してくれる存在」でした。
そんな日々が、ずっと続くと思っていたのでしょう。

はじめて見る“得体の知れない存在”
でもある日、私は出産のため長期入院。
そして帰宅したときには、見たことのない“得体の知れない生き物”がコロン…。
しかも、これまで聞いたこともない大きな声で泣く、ふわふわした物体。
そう、それが赤ちゃん。
彼女たちにとっては、まるで異世界から来た存在。
恐る恐る近づいては顔を覗き込み、でもすぐに見て見ぬふりをして、離れていく…。
そんな様子を見て、「この子たち、どう思ってるんだろう…」と私も少し不安になったのを覚えています。
おむつ替えや授乳のたびに、じっと様子をうかがう2匹。
赤ちゃんとの時間が増えると、「私を見て!」とばかりに先回りしてアピールをしたり、普段はおとなしいれいちゃんまで“かまってモード”で悪戯をするように。
まるで、小さな赤ちゃん返りのようでした。
特にはるちゃんは、赤ちゃんが泣くたびにちょっぴり怯えた表情を浮かべていて、
最初の頃は、きっと2匹とも“ちょっとこわい存在”として赤ちゃんを見ていたのだと思います。

少しずつ育まれる“家族としての変化”
でも、そんな関係にも、少しずつ変化が訪れました。
毎日お家で一緒に過ごす中で、赤ちゃんが泣いても逃げなくなり、そっと寄り添うように。
「大丈夫よ」とでも言っているかのように、ぴったり側で静かに座るその姿に、私は思わず涙ぐんでしまいました。産後すぐの私は、全てが初めてのことばかり。ホルモンバランスも崩れているせいか、精神的にも余裕もなく。動物たちの優しさに何度も助けてもらいました。ああ、この子たちの心にも、変化が芽生えているんだ――そう感じた瞬間でした。

そして、忘れられない日が訪れます。
ある日、ソファで授乳を終えて、まったり過ごしていたときのこと。
赤ちゃんがはるちゃんをじっと見つめたかと思うと、そっと手を伸ばし、触れようとするしぐさを見せたのです。初めての瞬間。
「はるちゃん、今から赤ちゃんがなでてくれるよ」とそっと声をかけると、
臆病なはるちゃんは逃げることなく、じっとその小さな手を受け入れてくれました。
目を見て、優しく寄り添うはるちゃん。
そして、はじめて触れた赤ちゃんからは、嬉しさがこみ上げたのか、パッと明るい笑顔と可愛らしい声があふれました。
私は、その光景を今でもはっきりと思い出せます。
赤ちゃんの笑顔と、動物たちのまなざし。
言葉はなくても、そこには確かに「心が通じ合った瞬間」がありました。

やさしさの記憶が、未来の宝物に
この先も、きっと泣いたり笑ったり、にぎやかな毎日が続いていくことでしょう。
私は願っています。
この子が大きくなったとき、人生で最初に出会った“お姉ちゃんたち”(犬と猫)からもらった「やさしさ」を、心のどこかにずっと覚えていてくれたら──。
動物と子どもの間には、言葉を超えた“通じ合い”が確かにあると、私は信じています。
子育てとペットのお世話、どちらも手がかかることはあるけれど、
それ以上に、子どもにとって動物たちと過ごす日々は、かけがえのない宝物になるはず。
命のあたたかさ、思いやり、やさしさ――。
それを教えてくれる、最初の先生は、きっと彼女たちだったのだと思います。


片岡まこ/Mako Kataoka
ウェルビーイングディレクター/Mako & Co.代表
3歳児の母。保護犬・保護猫と暮らしながら、「やさしく、しなやかに生きる」をテーマに、日々の暮らしや仕事にウェルビーイングの視点を届けている。
東京タワー展望台を貸し切った「ASAYOGA」や、文化服装学院でのウェルビーイング講義、企業研修、住宅や商業施設の空間プロデュース、著名人のパーソナルセッションなど、心と身体の“整え方”を多方面から提案。
ミス・インターナショナル(2015)ファイナリストとしての経験をもとに、表現や発信の場でも活動。ミサワリフォームコンテストでのグランプリ受賞など、住まいや空間づくりの分野でも実績を重ねている。
どんなときも「誰かの味方でいたい」という想いを胸に、仕事と子育てを両立しながら、等身大で活動中。