個人事業主になるうえで、気になるお金のこと。このコラムでは、5回に分けて、個人事業主にまつわるお金の不安を解消するための情報をお届けしています。
前回のコラムでは、スキルなしでも個人事業主として働ける方法についてお伝えしました。今回は、個人事業主として稼ぎはじめたら社会保険はどうなるのか、という点についてご紹介します。
社会保険は私たちの生活を支える重要な制度ですが、少し難しく感じる方も多いのではないでしょうか?でも大丈夫です!一緒に理解していきましょう。
※下記令和6年10月時点の内容です。
目次
個人事業主の社会保険は「国民年金」と「国民健康保険」
まず押さえておきたいのは、保険の加入は国民の義務だということ。日本は「国民皆保険」制度をとっており、原則、全ての国民がいずれかの保険に加入しなくてはなりません。
個人事業主の社会保険は、会社員とは大きく異なり、主に「国民年金」と「国民健康保険」で構成されています。会社員の加入する社会保険との違いについて、以下で詳しく解説いたします。
国民年金:個人事業主は年金が少ない!
日本の公的年金制度は、国民年金を基礎とし、それに厚生年金などの「2階建て」構造を持つ仕組みです。
1階部分にあたる国民年金(基礎年金)は、20歳以上60歳未満の国民全員に加入の義務があります。国民年金保険料は、1月あたり16,980円(令和6年度)となっており、個人で支払う必要があります。
そして、2階部分は、主に会社員が加入する厚生年金です。厚生年金は、保険料の半分を会社が負担してくれます。
つまり、個人事業主になると、国民年金だけの「1階建て」の年金になってしまうのです。
「え、それって将来もらえる年金が会社員より少なくなるということ?」
実は、そうなのです…。
国民健康保険:個人事業主は全額自己負担
国民健康保険は、会社員や公務員以外の人、つまり自営業者や無職の人、学生、年金受給者などを対象とした医療保険制度です。
会社員の場合、健康保険料の半分は、会社が負担してくれます。しかし、個人事業主になると、その負担がすべて自分の肩にかかってきます。
「えー、そんな…」と思わず声が出そうですが、実際どのくらいの金額になるのでしょうか?
保険料は、自治体によって異なるため、正確な金額を知るためにはご自身がお住まいの自治体で確認する必要があります。
例えば、東京都世田谷区に住んでいて、35歳、年収250万円の個人事業主の場合、令和6年度の月額保険料は約25,000円になります。
「思ったより高い!」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、ご安心ください!社会保険料の実質的な負担額を軽減できる仕組みがあるのです。¥
個人事業主の社会保険料は、所得から控除できる!
社会保険料(国民健康保険料と国民年金保険料)は、確定申告で全額が所得から控除できます。
つまり、実質的な負担額は支払った保険料よりも少なくなります。
保険料控除による実質負担額の例
所得税の控除額は、保険料の金額に所得税率をかけたものになります。
具体的な例を見てみましょう。
- 年収:250万円
- 年間社会保険料:50万円(健康保険料30万円+国民年金保険料20万円)
- 所得税率:10%(簡略化のため一率で設定)
この場合、所得税の軽減額は5万円(50万円×10%)となります。さらに、別途支払う住民税も軽減されるので、実質負担額は40万円程度に抑えられる可能性があります。
扶養の範囲で個人事業主を始めることもできる
個人事業主となっても、扶養の範囲で働くという選択肢もあります。社会保険の被扶養者要件である年間収入が130万円未満(収入‐経費=130万未満)であれば、配偶者の被扶養者となれます。
これが、いわゆる「130万円の壁」と呼ばれるものです。
被扶養者であれば、自分で保険料を支払う必要はありません。そのため、個人事業主として事業を始める方は、まずは扶養の範囲内でスタートする、というのも一つの選択肢でしょう。
老後の資金、どう準備する?
ここまでお伝えしてきた内容では、確かに、年金の受給額や社会保険料の自己負担額を考えると、個人事業主は不利に感じる方もいるかもしれません。
しかし、ここで大切なのは、将来に向けた資金の準備をしなくてはならないのは個人事業主も会社員も同じだということ。
そして、将来に向けた資金の準備をするうえで、個人事業主には大きなチャンスがあるのです!
年金制度の変化:会社員も個人事業主も同じ船に乗っている?
年金の受給開始年齢は年々遅くなっています。さらに、将来もらえる年金額も、今と同じかどうかわからないのです。
つまり、会社員だからといって安心できるものではなく、老後の資金問題は、個人事業主だけの問題ではない、ということですね。
個人事業主のメリットを活かして、未来への準備を
個人事業主になると社会保険の自己負担額が増えたり、将来の年金に不安を感じたりするかもしれません。しかし、個人事業主には以下のようなメリットがあります。
- 収入に上限がなく、努力次第で大きな収入を得られる
- 自分の裁量で仕事の時間や場所を決められる
- やりたい仕事を自由に選択できる
- 複数の収入源を持つことができる
このようなメリットを活かして個人事業主として働くことで、収入を得ながら、さらに稼いだお金を運用することで将来の資金を準備することもできるのです。
例えば、NISAやiDeCo、さらに個人事業主だからこそできる小規模企業共済などを活用して投資を始めてみるのもよいかもしれません。
※小規模企業共済とは、小規模企業の経営者や個人事業主が、積み立てにより退職金を準備できる制度です。
「投資なんて難しそう…」そう感じるかもしれませんが、少額から少しずつ始めることもできます。そうして、少しずつ資産形成をしていけば、子どもの教育資金や老後資金をつくっていくことができるのです。
【最後に】一番大切なのは、自分や家族の未来について考え、行動を起こすこと
「明日からできることは何だろう?」と、少し考えてみませんか?きっと、あなたなりの答えが見つかるはずです。
個人事業主として働くことで、自分の力で収入を増やし、それを賢く運用して将来に備える。それは素敵な未来の形ではないでしょうか?私たちの未来は、私たち自身の手でつくっていけるのです。
Mama Yellを運営する東京ヤクルト販売株式会社では、個人事業主であるヤクルトレディが安心して働くことができる環境づくりに力を入れています。
年末調整に必要な書類作成のアドバイスや扶養の範囲に合わせた業務と収入の調整など、個人事業主の不安に寄り添ったサポート体制が整っています。
わからないことがあってもすぐに誰かに聞くことができる環境なら、安心して個人事業主デビューができますね。
ぜひ、ご検討ください!
三好夏枝/Natsue Miyoshi
大阪経営クリニック株式会社 代表取締役
メーカーの新規事業開発部門でマーケティング・営業に従事。
出産を機に、キャリアや働き方を見つめなおし、不動産鑑定士の国家資格を取得。士業に転職するも、転職1年目と1歳児の育児、起業1年目の夫のサポートで、家庭と仕事の両立に苦心、限界を感じて新たな道を模索する。
その後、大阪経営クリニック株式会社を設立し、個人事業主や小規模事業者の売上アップ支援、ライティング業を軸に活動。「自分らしく輝く大人」を増やすことで、子どもたちが「大人になって働くことは楽しい」と将来に希望が持てる地域・社会づくりを目指している。