あなたは、『モンテッソーリ教育』をご存知ですか?
将棋の藤井聡太二冠や世界の著名人が受けた教育として、モンテッソーリ教育は様々なメディアで取り上げられていて、より一層注目を浴びている教育です。
基本となる考え方を理解すれば、おうちの親子の時間にモンテッソーリ教育を取り入れることは可能です。子どもと一番長い時間を接しているママこそ、モンテッソーリ教育の視点を持つことができたら、親子の生活がもっと楽しくラクにスムーズになるでしょう。
この連載では、モンテッソーリ教育をおうち時間に取り入れるためのアイデアと方法を紹介します。
第2回目のこの記事では「モンテッソーリ教育を始めたいママが、おうちで実際に何から手をつけたらいいのか」を紹介します。
モンテッソーリ教育をおうちで始めるには?
おうちでモンテッソーリ教育を始めたいと考えても、何から始めたらよいのか分からないママがほとんどだと思います。
モンテッソーリ教育を知った当時の私もそうでした。モンテッソーリ教育の幼稚園も教育施設も近所になかったので、どうすればいいのか途方に暮れました。
子どもは環境から学ぶ
子どもは自ら成長する
前回の「モンテッソーリ教育で大切なこととは?」では、モンテッソーリ教育の基本的な考え方として「子どもには、自ら成長しようとする自己教育力がある」と説明しました。
この自己教育力が発揮されるために必要なものが、環境です。モンテッソーリ教育では、子どもの発達段階に合った環境があれば、子どもは自ら成長することができるとされています。
子どもの『環境とは』?
ここでいう環境とは、『子どものまわりのもの全て』を指します。机、椅子や棚のような家具、おもちゃや絵本、食器のような小物といった物的環境だけでなく、保護者や教師など子どもの接する人的環境も含めて、モンテッソーリ教育では子どもの環境を大切に考えています。
子どもが母国語を身につけていく様子をイメージすると分かりやすいかと思いますが、子どもは環境から全てを吸収するように学び、環境によって自ら成長します。
ママが洗濯物を運ぶときに両手がふさがっているからドアを足で開け閉めしていたら、子どもも同じように足で開け閉めするようになった、なんて真似して欲しくないことを子どもがやるようになったことはありませんか。
特に乳幼児期の子どもは良いことも悪いことも全てを環境から学んでいることを、私たち大人は子どもの環境の一部であることを意識して、行動したいですね。
子どもにあったものを使う大切さ
モンテッソーリ教育施設の多くが『子どもの家』という名前をつかっています。子どもの家とはその名の通り、子どものためのスペースであることを表していて、子どもが過ごしやすいように環境が整えられています。
道具や教具は出し入れしやすいように、子どもの体にあった大きさの棚に収納されています。子どもが使うどんなものも、子どもの扱いやすい大きさで、美しくて、できるだけ本物を用意します。例えば、飲み物をコップに注ぐためのポットは、子どもの手に合わせて大きさで、ガラス製のものになります。
『子どもを観察』することを重要視する理由
子どものために環境を整えるためには、子どもが何をやりたいと思っているのか、何に困っているのかを知ることが大切です。それを知るために必要なことが、子どもの観察です。
そもそもモンテッソーリ教育の出発点も、子どもの観察でした。マリア・モンテッソーリがまだモンテッソーリ教育を確立する前に障害児教育に携わっていた頃、観察を通して子どもたちは手や指を使いたいのだと発見しました。
障害児たちのどんな様子を観察して発見したのかというと、「床に落ちたパンくずを拾い集めて食べている様子」でした。パンをどうしても食べたいからだと他の大人たちは考えましたが、モンテッソーリはそうではなく、小さなもの・パンくずを拾えば、手や指をつかうことができるから障害児たちがパンくずを拾っているのだと発見しました。
モンテッソーリはこのような観察を通して発見した特性に合わせ環境を整えたところ、やがて障害児たちが試験で優秀な結果を出したことで、注目を集めました。その後、モンテッソーリは障害児だけでなく全ての子どもたちの教育に携わりたいと考え、初めての『子どもの家』をローマのスラム街につくります。これ以降も、モンテッソーリは子どもの観察から、子どもへどんな接し方をすればいいのか、どんな教具を用意すればいいのか考えて、モンテッソーリ教育を確立していきました。
モンテッソーリ教育の教師を養成する際にも、子どもの観察を大切にしています。マリア・モンテッソーリが自ら設立した国際モンテッソーリ協会(Association Montessori International・AMI) の0~3歳を対象とした教師養成コースのカリキュラムでは、250時間の観察実習があります(2020年10月時点)。教育実習が30時間と比べても、観察をいかに重要視されているかが分かりますね。きちんと観察できるようになるために、子どもの前に動物の観察を最初に始める徹底ぶりには驚きます。
まずは「子どもの観察」から始めよう
ママがおうち時間にモンテッソーリ教育を取り入れる時も、子どもを観察して環境を整えることから始めましょう。ママは子どもと接する時間が長いからこそ、子どもの観察がしやすいアドバンテージがあります。
といっても、育児に家事に仕事に忙しく過ごす毎日。「いつも子どものことは見ているから、今さら観察なんて言われても」と戸惑うママもいるかもしれません。
子どもを観察する際は、「子どもが何をやりたいと思っているのか」「子どもが何に困っているのか」を意識します。やりたいと思っているのにできない原因は何か、うまくいかないけどやりたいと思っていることを発見します。
まずは無心で観察して、子どもの様子を淡々とメモすることから始めましょう。短時間、まずは3分間でもいいので、子どもを観察してください。いつもと意識を変えて子どもを観察したら、きっと新しい発見があるでしょう。
実際の生活の中で取り入れる方法
例えば、子どもが自分でくつを履きたいけど履けなくて泣いて大騒ぎになり、ママは時間が気になってイライラしますが、子どもがどうしてくつをうまく履けないのか観察してみてください。
子どもが右と左を見分けられないなら、インソールに印をつけるなどして右と左を分かりやすくしましょう。つま先をうまく入れられないのなら、甲のベルトが大きく開けられるくつがおすすめです。かかとを上手にいれられなければ、かかとの部分に紐がついているくつを選びましょう。くつを履く姿勢が落ち着かなければ、子どもが座りやすい椅子や踏み台のようなものを用意しましょう。どれも、くつを履く環境を整えることになります。
公園で排水溝のふたの穴から、子どもが落ち葉やドングリを何個も落としてママが困ったことはありませんか。その様子を観察したママが、子どもが落とすお仕事※をしたいのだと気がつけば、ようじ落としやぽっとん落としと呼ばれるようなおもちゃを用意することができますね。
※モンテッソーリ教育では子どもの活動を「お仕事」と呼びます。
- そろそろハイハイを始めそうな赤ちゃんには前進したら触れそうな場所におもちゃを置く
- はいはいを始めた赤ちゃんにはつかまり立ちするときに支えになる台を用意する
- 着る服を選びたい子どもにはタンスから洋服を出して選びやすいようにハンガーにかける、その際も子どもの目線に合わせた高さにする
など、観察して環境を整えれば、子どもはやりたいことに挑戦しやすくなります。
子どもが自ら成長できるように、おうちの環境を整えることは、モンテッソーリ教育を取り入れる第一歩。子どもに合わせた環境の中で子どもがやりたいことをスムーズにできれば、ママのストレスや負担も減るでしょう。
おうち時間にモンテッソーリ教育を取り入れるために、まずはゆっくりお子さまを観察する時間をとってみてくださいね。
次回は、0歳~6歳の時期にあらわれる、特定のことに強く興味をも持つ「敏感期」について紹介します。